―― 『依存』と『好き』って似て非なるものかもしれませんが、境目が難しいじゃないですか。桜子さんは、その先生の事を好きになったりというのはなかったんですか?
桜子 治療を受けているうちに、異性の先生を好きになるのを『恋愛転移』というらしいのですが、正直言うと、仄かなそういった感情が芽生えた事もあります。
―― なるほど。
桜子 自分でもそれが『好き』という感情なのか、よく分からなかったですけど。先生の事をとても信頼しているのは間違いないです。
―― 桜子さんは、キュンキュンしやすい体質ですもんね。
桜子 まあキュンキュンした方がアンチエイジングにいいらしいので、そこはそのままにしておいてもいいかなと思ってます(笑)。
―― お話を聞いてると心療内科医の方というのは、冷静で中立じゃないと務まらない気がしますが。
桜子 そうだと思います。先生が一度、私の容姿を褒めてくれた事があったのですが、褒める前に「今からあなたの事を褒めますけど、恋愛的な意味ではないので、そこは誤解されないようにお願いします」と、いうような事を前置きしてらっしゃいました。
―― という事は、やはりお医者様を好きになる方が、いらっしゃるんでしょうね。
桜子 本当に色々な面を先生には見せてしまっています。私がパンパンに太っている時も、食べられなくなって急にやせた時も知っていますし。あとは、たまに治療中に泣いてしまう事もあるんです。
―― そういう時、先生はどのようなご対応を?
桜子 黙ってティッシュの箱を差し出してくれます。
―― 声を掛けたりというのは?
桜子 ないですね。どれだけ泣こうが眉一つ動かしません。プロですね。
―― 亡くなられた落語家の桂枝雀さんも、うつ病で苦しんでらっしゃったのですが、関西にいらっしゃった主治医の方が急に四国へ転勤になられたらしいんです。枝雀さんは、やっぱり気心の知れた先生がいいと、四国まで通ってらっしゃったそうです。
桜子 お気持ち分かります。
―― 例えばですけど、東京に拠点を移された場合は、今の先生に見ていただく事が難しくなると思うのですが、そういった不安はお持ちですか?
桜子 そう言えば、先生にそういう話をした事がありました。「自分と繋がりのある診療内科医を紹介しますよ」とは、おっしゃってくださいました。
―― 僕の知り合いで躁鬱病を経験した方がいらっしゃって、今はもう薬を飲まずに生活されているんですが、一般的に躁鬱病というのは、時間がかかるものなのでしょうか?
桜子 個人差もあるので正確な事は分からないのですが、寛解(病気の症状がほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態)になったとしても、念のため5年間は薬を飲み続けて下さいと言われています。
―― 芸人さんて本番ではハイテンションでも、舞台を下りると大人しい方が多いですけど、あれも言ってみれば躁と鬱に近いというか、テンションの振り幅で言うと、一般の人よりもかなり激しく振り子が振れていると思うんです。
桜子 お笑いに限らず芸能界で心を病まれる方が多いのは、それが原因のひとつかもしれませんね。何かとプレッシャーの圧し掛かる世界でもありますし。
―― 復帰されてから、昔とここが変わったというのがあれば教えて下さい。
桜子 舞台に対する姿勢ですね。ダメな事ですけど、昔はどこかで舞台をなめてた部分があったのだと思います。
―― 今はとても舞台を大事にしてらっしゃいますね。
桜子 舞台に対する、こだわりは強くなりました。当たり前ですがお客様が見に来て下さっている以上、どの舞台も大切です。
―― 生理用品も真剣に投げられている?
桜子 もちろんです! あれには私の思いが詰まっています! そう言えば昔は舞台でニンジンを投げていた記憶があります。なんか私、ほとんど芸風が変わってないですね(笑)。
(続きます)
インタビュー・文 高田豪